去年放送していたNHKスペシャル「2030 未来への分岐点」がすごく勉強になるので、紹介したいと思います。
- 資源の大量消費
- 人口爆発と食料問題
- 加速する温暖化
飽くなき人間の活動は、地球の運命を左右し始めている。
危機を乗り越える道筋を探る2030。
第3回 プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界
死んだヒナの身体から112個(体重の一割の重さ)のプラスチックゴミが出てきた。
海洋生態学者のジェニファー・レイバース博士の言葉
「彼らは重要なメッセージを伝えています。それに耳を傾けるかどうかは私達次第です」
私達は便利な暮らしと引き換えに、大量のプラスチックごみを出している。
それはどこまでも細かく砕け、海から大気まで地球のあらゆる場所に広がっていることが明らかになって来た。
大気汚染の研究者の言葉
「これはもう確実にプラスチックを吸い込んでいる。気付いた時にはもう影響を受けているのが怖いところ」
マレーシア北部のスンガイプタニでは、深刻な事態が起こっている。
去年11月の深夜、プラスチックリサイクル工場で火災が起きた。燃えたのは全てプラスチックゴミ。日本などの先進国から輸入され、ここでリサイクルされる予定だった。この地区ではこうした火災が二年間で20件も発生する異常事態となっている。現地の消防は放火が原因だと見ている。
地元の診療所の医師ティオーさんは言う。
「証拠はないのですが廃棄物を燃やすために業者自身が放火したと疑っています。火災を起こして安上がりに処理しないと採算が取れないからです。彼らにとっては経済的ですが、住民は大変な被害を受けます。去年の三月ごろから肺の病気、気管支炎、せきなどを訴える患者が例年よりも15%増加しました」
ティオー医師と住民達がリサイクル工場に抗議した結果、頻発していた火事は減ったが、次は人目につかないところに大量にプラスチックゴミが放棄される事態が相次いでいる。
砂のように見えるのは粉々に砕かれたプラスチックゴミ。池だったところが深さ15mに渡って埋め立てられている。
ティオー医師「これは土ではなく全部プラスチックなんです。一年近く前に捨てられましたが、草も生えません」
今回の取材では、日本からのプラスチックごみも、マレーシアで大量に投棄されていることが分かった。
不法投棄や放火を防ぐために、今年一月「(同意のない)プラゴミ輸出禁止」の国際条例ができたが、規制を潜り抜ける業者が後を絶たないとして、警戒している。
ティオーさんの言葉
「これらのものが分解されるまでにおそらく何百年もかかるでしょう。マレーシアは外国からのあらゆる種類のゴミ捨て場になってしまった。あってはならないことです」
行き場のない地球にたまり続けていくプラスチックゴミ。大量消費社会の限界があらわになっている。
1950年代から本格的に使われるようになったプラスチック製品は便利・丈夫・安いことから、「20世紀の夢の発明」と、もてはやされた。
これまで世界で83億トンのプラスチックが生産され、今後も増え続けていく。
石油から作られるプラスチックの36パーセントが容器・包装。建築資材が16%、繊維が14%を占める。
リサイクルされているのは全体の9%。焼却場では12%が処分されている。燃やすと大量の二酸化炭素を出して温暖化につながるため、燃やせない。プラスチックごみの80%は埋め立てなどになっている。
大きな問題は、野ざらしになったプラスチックゴミの残骸が海に流れ出すこと。その量はプラスチック消費量の一割で年間推定3,000万トン。海流に乗り、地球全体に拡散される。既にプラスチックゴミは回収しきれないほどあふれている。
対馬には韓国や中国からのプラスチックゴミが流れ着き、日本のゴミはハワイなどに流れ着いているので、誰もが被害者であり、誰もが加害者である問題。
このプラスチックが今、海の生態系に深刻なダメージを与える危険性が増えている。
九州大学の磯辺篤彦教授は海水に含まれているマイクロプラスチックを調べている。波や紫外線の影響で5mm以下に砕けたプラスチックのかけらが「マイクロプラスチック」で、魚や貝が次々に誤飲する。
魚や貝は、マイクロプラスチックなどの栄養の無い異物を摂り続けると、大きくなれず、繁殖にも影響する。
磯辺さんが実験的にマイクロプラスチックを魚に与えた研究では、魚介類の成長に悪影響をもたらすマイクロプラスチックの濃度は1,000mg/㎥だとわかった。
磯辺さんの研究チームは、太平洋から南極まで600地点のサンプルを回収。そのデータをもとに海洋中のマイクロプラスチック濃度をシミュレーションした。
解析の結果、日本近海(特に九州西部の海と伊豆諸島エリア)、ハワイの西部エリア、メキシコ沿岸あたりがその濃度であることが分かり、今のまま、プラスチックごみを排出し続ければ、2050年には魚介類の成長に悪影響をもたらすエリアが3.2倍に拡大することが分かった。それらの海域は、多くの魚介類が生息するところなので、水産資源が先細りする可能性が見えてきた。
磯辺教授の話
「本来とれるべき魚の量がとれなくなってしまうだとか、生態系そのものがだんだん縮んでいく恐れがある。海洋生物が貧弱になっていくということは、それを食べる海鳥だとか海生哺乳類だとか、地球全体の生態系そのものにも波及していく。最悪のシナリオを考えればそういったことになりかねない。」
東京農工大学の高田秀重教授は、マイクロプラスチックの人間への影響に警鐘を鳴らす。
これまで「マイクロプラスチックは人体に入っても排出されるので問題はない」とされてきた。しかし高田教授はプラスチックに含まれる添加剤と言う化学物質の影響を危険だとみている。
プラスチックの劣化を防ぐ紫外線吸収剤、燃えにくくする難燃剤など、酸化防止剤、可塑(かそ)剤など、プラスチックの性能を高める様々な添加剤は、人体に吸収されると有害なものもある。
高田教授の話
「マイクロプラスチックは有害物質の運び屋で、トロイの木馬と言う人もいます。生物の体の中に入っていって、有害な化学物質が溶け出してくることでその生物を中から攻撃してしまう」
高田教授の研究チームはプラスチックの添加材が、食物連鎖によって濃縮されることを突き止めた。
まず食物連鎖の底辺であるアミという海老にマイクロプラスチックを与える。次に、カジカという魚にその海老を与える。このカジカの身や臓器を分析すると、すべてのサンプルから難燃剤と紫外線吸収剤が検出された。
海水から直にマイクロプラスチックをとったカジカと、マイクロプラスチックを食べて育ったアミを与えたカジカを比較すると、アミを通じたものの方が身に10倍近くの難燃剤が蓄積されていた。
添加剤は食物連鎖によって取り込まれ、食物連鎖の上位にいくほど大きな影響を受ける可能性が明らかになった。
高田教授「人が食べる魚に染み出して、魚の身に溜まることが分かったことが、非常に重大なことだと考えている。」
難燃剤は電化製品やパソコンなどのケースを燃えにくくするために使われており、その一部は段階的に製造禁止になってきた。動物実験で脳神経の働きを阻害することが分かったからだ。人の場合、母乳の中に含まれると、それを飲んだ子供の知能指数が低くなることが分かっている。
多くの日用品に含まれている紫外線吸収剤でも同様の議論がされつつある。
高田教授はこうした添加剤のリスクを慎重に見極めていく必要があるという。
高田教授の言葉
「長期的には毒がしみだしてきて回りに回って人に入ってくる。影響が数十年あるいは世代を超えて出るところが怖い所だと思う。生産の末端から上流まで含めて全部変えていかないと、2030年までの間にそういうふうなシフトチェンジをしようと言う合意形成をして、一斉に変える方向にかじを取らないと未来を変えることはできない」
2070年の沖縄の海は、ゴミだらけ。海の中にも、ゴミ。
「君が好きだった海はもうどこにもない」と未来人。
「すでにプラスチックが海の支配者だ。魚の全重量をゴミの重量が超えてしまった。魚なんてほとんど食べられない。僕たちの時代の海はまるでプラスチックのスープのようだ。きみがいる2021年から、2030年までの10年が地球と未来を決めるんだ。科学者は警告していたはずだ。今すぐ大幅に使用を減らさないと、2030年には海のプラスチックゴミは9,000万トンになると。世界のリーダーの間でも2030年までに使い捨てのプラスチックの使用を大幅に削減しようという声が出ていた。でも、多くの人はプラスチック汚染の脅威がどれほど深刻か、まだ気づいていなかったんだ」
今、プラスチックの新たなリスクが浮かび上がっている。
1mmよりもはるかに小さく砕けた、「ナノプラスチック」の存在が明らかになってきた。
電子顕微鏡で、海岸で採取したマイクロプラスチックを観察すると、無数の突起がみつかった。これが剥がれ落ちるとナノプラスチックになる。しかしあまりに小さいため、検出するのが難しく、実態は分かっていない。
京都大学の田中周平准教授は世界に先駆けて、海や川の水からナノプラスチックを検出する方法を見つけた。
新たな技術で発見されたナノプラスチックはサルモネラ菌レベルの大きさで、川から検出された。
田中准教授「ナノプラスチックの大きさは、菌類や細菌、ウィルスの世界になるので、人体に吸収されないかどうか懸念しないといけない」
環境中に漂うナノプラスチック。細菌並みのサイズになると、排泄されず、小腸などを通じて血液の中に入ると考えられている。細胞膜もすり抜けて体の中に入り込み、人体に悪影響をもたらすと考えられている。
今、ナノプラスチックのリスクを見極める研究が本格的に始まっている。
スイスのティーナ・ビュルキ博士は、50ナノメートルと言うナノプラスチックの粒子を用いて、人体への影響を調べているが、胎盤の外側の細胞の層に蓄積されるということが分かった。
胎盤にナノプラスチックが蓄積されると、赤ちゃんの成長に悪影響があると博士は言う。
「ナノプラスチックが胎盤の組織に長い期間あると、大切な機能を妨げ、赤ちゃんに必要な栄養素やホルモンが十分に届かないなど、悪い影響が出る可能性がある。これを解明するためにはさらに研究が必要です」
さらにもう一つ気になる報告がある。大気中に大量のプラスチックが漂っている可能性がわかって来た。
福岡工業大学の永淵修博士は、大分県のくじゅう連山の樹氷から大気汚染を調べている。
「樹氷の見た目は大変美しいが、大気中の汚染物質がかなりの量含まれています。マイクロプラスチックもかなりの量が含まれています」
標高1,000m以上の高山には地球を循環する風が吹いている。樹氷には遠くから運ばれた汚染物質が封じ込められている。
樹氷を溶かしてこしとると、黄砂などのチリが無数に浮かび上がった。その中には長さ70マイクロメートル(直径30マイクロメートルの杉花粉と、さほど大きさが変わらない)のマイクロプラスチックが入っていた。黄砂1リットル中には、5,000から1万個ものマイクロプラスチックが含まれていることがわかった。
これは、永淵教授にとっても想像以上の濃度で、大気を通じてマイクロプラスチックを取り込む健康の影響を調べている。
永淵教授の言葉
「それはもう確実に吸い込んでいますね。プラスチックには寿命が無い。分解しないし、何百年もふわふわふわふわ地球上を漂っている。人間がもしプラスチックの影響を受けるとしたら、呼吸や食べ物を通じてマイクロプラスチックの小さくなったものが誤って入ってきて、血中に入っていろんな臓器に回ってきて、そこでどういう悪さをするか。それがまだ全く分かっていない」
2070年の未来では、みんなが粉塵マスクと目を守るゴーグルをつけて外を歩いている。
「僕が住む世界では無数のマイクロプラスチックが大気中を漂っている。外で深呼吸もままならない。こんなことになったのは、君達がプラスチックに依存し過ぎた社会を作り上げてしまったからなんだ。」
インドネシア・バリ島の子どもたちは2013年に「バイバイプラスチックバッグ」活動を始めた。これは2019年に「使い捨てプラスチック使用禁止」の条約ができるきっかけとなった。
バイバイプラスチックバッグの活動の中心は、12歳と10歳の女の子だった。
活動の中心だったメラティさんに「なぜプラスチックごみの中でも、レジ袋を選んだのですか」と尋ねたら、「みんなが今日から簡単に始められることが良かったのです。それがレジ袋を使わないということでした。それができると、次はストロー、包装容器などへ意識が向きます。最初の一歩を踏み出すことで全てが変わります。だから手を付けやすいレジ袋を活動の象徴にしたのです」
メラティさんらは、プラスチック汚染の絵本を作成し、クラスメイトや地元の子どもに紹介し、身近な仲間作りから始めた。隣の村や市場に足を運び、大人にマイバッグの使用をお願いするなど草の根活動をし、署名を集めて知事に嘆願。粘り強く訴え続けた。毎日のように手紙を書き、電話をかけ、ドアをノックしたが、誰も真剣に受け止めてくれなかった。
しかし、熱意に徐々に共感する人が出てきて、ゴミ拾いは325回、のべ45,000人が集まった。
こうした取り組みがやがてインドネシア全土全体のプラスチックゴミ削減へ繋がっていった。
インドネシアでは3人に1人が水筒を持ち、4人に一人がマイスプーン・マイフォークを持ち歩くようになっている。
メラティさんの言葉
「子供は世界の25%だとしても未来のすべて。それは私達の行動と共にもう始まっているということです」
世界中で消費者の買い物に対する意識も徐々に変化している。
環境に配慮した商品を5年前よりも多く買うようになったとする人が72%に上った。
ファッション業界も消費者の動向に沿い、衣類に使われる繊維に、再生ナイロン(もとは漁網やじゅうたん)を使用している。
プラスチックで最も使われているのが容器・包装類。全体の36%にのぼる。
これに、花王とライオンのライバル関係にある両社が共同で、詰め替え容器のリサイクルを行うと発表。
容器を共同のボックスで回収し、それを再利用して新しい容器を開発。企業の垣根をこえ、容器が循環する仕組みを目指している。
花王の長谷部社長の話
「ライバル企業達が手を組んで最終的に循環を回していく。作ったものに対してどのくらい責任を持てるかが、これからの企業の生き死にを決めると言ってもいい」
世界で使い捨てプラスチックからの脱却を進めている中、そもそもゴミを出さないように努める人がいる。
テラサイクルのトム・ザッキーさんがたどり着いたのは、リサイクルとは違うアイデア。
トム・ザッキーさんの言葉
「リサイクルがゴミ問題の本当の解決策なのか考えてきた。リサイクルは重要ですが、ゴミ問題の根本的な解決にはなりません。たどり着いたのはゴミと言う概念を無くすこと。これを最も皆さんが納得してくれる方法、つまり持続可能なビジネスを通して広げたいのです」
「ゴミと言う概念を無くす」
実現の第一歩として考えたのが、ループという仕組み。使い捨てを全く使わずに回すという仕組みだ。
その将来性に期待が集まり、今、500を超えるブランドが「ループ」に参加している。
ループの利用はまず、オンライン上で、商品を選ぶ。すると、異なるメーカーの製品が専用バッグに入れられ自宅に届けられる。ポイントはバッグの中に詰め込まれた容器で、各メーカーと共同で開発したステンレスの瓶が入っており、何度でも洗って使える耐久性に優れている。中身を使い終わった容器はバッグに入れて玄関に出すと、配達員により回収され、洗浄・中身を充填・再び消費者の元へ・・・とループする。
自分で中身を詰め替えなくても良いこと、デザインが洗練されていることなどから、アメリカで35,000世帯が利用。一部の日本企業も参加している。
この仕組みを、世界中で使う企業や利用者が増えればコストも下がる。
「使い捨てない」
「私達は買い物を通して未来に対して投票をしています。考えなければならないのは、持続可能な未来に対してどう投票するかです。買う量を減らすのか、長く使えるものを選ぶのか。この投票に今こそ向き合うべきなのです。」
このまま何も行動を起こさなければプラスチックゴミは増え続ける。
可能なかぎりリサイクルをしたとしても、45パーセントの削減にしかならない。
しかし「使い捨てない」ことで、プラスチックごみを78パーセント減らせる可能性がある。
地球の資源を循環させる社会システムを作ることで、未来は変えられる。
実現のカギを握るのは、私たち一人一人。
トム・ザッキーさんの言葉
「ずっと前から、残り時間はわずかです。自分の行動が影響を及ぼすと考えるだけでも、すでに正しい方向に一歩踏みだしている。小さな変化は取るに足らないと考えがちだが、小さな一歩はすぐにまわりに広がる。まずはその方向へ歩み始めなければならない」
「2030 未来への分岐点」の再放送は未定です。
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