前回の記事「狭穂姫(佐保姫)伝承」で、少しふれましたが、今日は私が小中学生の頃にハマっていた本を紹介します。
1970~1980年代生まれの方で、ご存知の方も多いはずっ!
私がドはまりしていたのが、この2シリーズ。
氷室冴子(ひむろさえこ)さんの「銀の海 金の大地」と、山浦弘靖(やまうらひろやす)さんの「ユーモア・ミステリー 星子(せいこ)ひとり旅シリーズ」です。
どちらも全巻揃えていましたが、高校生の時に処分。ところが今年に入ってから急に懐かしくなり、図書館で借りて30年ぶりに再読したところ、
「おもしろいなぁ。やっぱり手元に置いておきたいな~~」
と情熱が再燃して、中古本で買いなおしました。
銀の海金の大地は全11巻で、星子ひとり旅シリーズは全52巻です。
氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」
氷室冴子(ひむろさえこ)さんは、ジブリ映画の「海がきこえる」や、「なんて素敵にジャパネスク」、「ざ・ちぇんじ!」、「ヤマトタケル」を書いた方。
「銀の海 金の大地」は古事記を元にしたファンタジー小説で、刊行されているのは全11巻なのですが、本当は50巻の大長編になる予定でした。
氷室冴子さんの「銀の海 金の大地」のあらすじをザックリ言いますと、大和王権が成立して間もない時代の淡海の国(おうみのくに)に育つ奴婢(ぬひ)の娘・真秀(まほ)は、息長(おきなが)の邑人たちから「ヨソ者」と疎外されながらも、障がいを持つ母と兄を助けて暮らしていました。しかし、母親の御影(みかげ)が、「巫王の一族・佐保(サホ)の巫女姫・大闇見戸売(おおくらみとめ)」の姉であることと、父親が大和の豪族・和邇(わに)の日子坐(ひこいます)であることを知り、「同族の住まう、春日なる佐保へ行きたい!」と夢を膨らませます。けれども真秀は佐保にとって「滅びの子」であり、佐保一族の王子「佐保彦」と、その妹「佐保姫」は、真秀と真澄の兄妹に・・・・
これは、古事記の「中巻・垂仁天皇」に出てくる佐保彦の反乱を元にしたお話で、古事記に登場してくる人物「和邇(わに)の日子坐(ひこいます)」、「「息長(おきなが)の真若王(まわかおう)」、「丹波(たんば)の美知主(みちのうし)」、「佐保(さほ)の大闇見戸売(おおくらみとめ)」とその子供の「佐保彦」と「佐保姫」などが出てきます。歴史好きな方にオススメしたいです。(銀の海金の大地はフィクションなので、史実とは違うところがたくさんありますが)
全部で50巻を超える大作となる予定でしたが、途中で、氷室冴子さんが亡くなられたので、未完となってしまいました・・・。サブタイトルの「古代転生ファンタジー」とありますが、誰も転生しないまま終わっているのが残念!
第一巻のあとがきに、氷室冴子さんはこう書かれています。
もちろん銀の海金の大地のストーリーは「古事記」そのままではありません。結局のところ「古事記」も「日本書紀」も、いわば支配者側から見たストーリーですから。で、私は支配されるのがイヤ。だから支配者もキライ。むしろ歴史が動き、支配者が権力を取ろうとする野心の前に、踏みつけられ、滅ぼされても、それでも生き抜こうと雄々しく刃向かう、名もない人々に私は心惹かれます。
氷室冴子さんの好みを反映してか、主人公の真秀ちゃんは、かなり気性が激しいです。(好き嫌い別れると思いますが、私は泣き言を口にせず一生懸命生きる彼女が好きです)
物語は五世紀ごろで、「銀の海 金の大地」の主人公である真秀(まほ)が住む地は、滋賀県の三上山(みかみやま)のふもとの野洲(やす)です。ちょうど物語を執筆中に、「和邇(わに)氏」や「丹波(たんば)」が考古学で浮上してきて、「野洲(やす)」に「伊勢遺跡」が発掘されたとニュースになったそうです。
和邇氏は、やがて春日氏とか小野(小野妹子と言う遣隋使もいた)、柿本(柿本人麻呂という歌人もいる)なんていう氏族に枝分かれしていきます。で、この春日氏と言うのは、5~6世紀にかけて、やたら大王家に后を出しててロマンチックな豪族なのです。こういう、古代のゴタゴタした雑知識をめいっぱい活用して、あれこれ嘘っぱち並べて古代ドラマにしているのが「銀の海 金の大地」で、要するに作り物、フィクションなんですが。
(氷室冴子さんのあとがきより抜粋)
「古事記」に興味のある方は、下の本もオススメ。著者の角川源義さんは角川書店の創業者です。
佐保の巫女姫「大闇見戸売(おおくらみとめ)」に、氷室冴子さんは双子の姉の「御影(みかげ)」という人物を作りましたが、近江三上祝の司祭神に「天御影命(あまのみかげのみこと)」がおり、ここから登場人物の名前をとられたのかなーと、面白く読めました。
物語の舞台が古代で表現の一部がやや硬いですし、愛憎と謀略が渦巻くハードな展開なので、好き嫌いが別れそうな物語なのですが、氷室冴子さんの書く文章はスリリングでとても面白いですし、泣けます。
血は内腿を伝って膝まで滴りおち、足首のところで、闇に染まった川水にとけだしている。
右の手首に巻いた手纏の血赤サンゴそっくりの、深みのある赤い血。
寝藁に点々と染みついていた、御影の病の血そのものの赤が、自分の腿を妖しく光りながら滴りおちてゆく!
(あああ!)
真秀はくらくらと眩暈をおこした。
眩んでゆく目にうつる、ちかちかときらめく川面。
闇の中、月の雫をあびてきらめき流れゆく川水すべてが、今、真っ赤な血の流れのように見える。
さわさわと、いのちの音をたてて流れてゆく血の川。黄泉の底を流れるような、濃い赤に、赤を重ねた血の川。
目の底まで染まりそうな血なまぐさい血の赤が、真秀の目も、頭も、すべてを真っ赤に染め上げてゆく。
杜の梢のうえをとびかう精霊(すだま)さえ血を吐いたように、あたり一面があかあかと燃えあがるような幻影が、真秀を包んだ。
(どうしよう。あたしまで病になった! 真澄、真澄! だれが真澄を守るの!?)
↑
これは、一巻の最後の方の文章。
迫力ある表現ですが、さらりと言うと「14歳の真秀ちゃんが初めて生理になった。母親が婦人系の病気(子宮がん?)で寝たきりで、ずっと陰部から血を流しているので、自分も病気になってしまったと勘違いをした」ところです。
いや~~、なんてドラマチックな書き方なんでしょうね!
ぜひ、声に出して読んでみてください。
ハードな展開、どろどろした人間関係なのですが、気高く雄々しく生きる真秀ちゃんはエライです。(お兄さんが最後の方で、ビックリな展開になるのですが・・・)
古事記に登場する和邇(わに)の日子坐(ひこいます)のセリフなんかも、「実際にこういうことを考えていたのかなー」と思わせる表現をするのが、氷室先生のすごいところ。
以下、和邇(わに)の日子坐(ひこいます)のセリフ。
おれは子供のころから、戦場に出るか、海に出ているかだった。育ての親の叔父が、厳しい人だったのさ。だが、おかげで大陸の国を、この目で見た。あそこは凄い国だ。それに韓土。韓土はちょうど、いくつもの小国にわかれて、戦をしていた。今は、いくつかにまとまっているようだがな。百済だの、高句麗だの、伽耶だのとね。いずれも、熱と、力にあふれた国々だ。海の彼方の国々から見れば、この秋津島(←日本のこと)なぞ、海に浮かぶ土塊(つちくれ)のようなものだ。俺の夢は、この秋津島をひとつにまとめあげて、大陸の国々と対等に付き合える、豊かで、強い国にすることだ。そうして、ふたたび海に漕ぎ出す。海のかなたは、知恵も、財も、夢も、つきぬ泉のようにある。なのにこの大和国中の連中ときたら、海にこぎだすどころか、肩が触れ合うような狭い領地に縄を張り、縄張り争いばかりだ。いやになるな。偏屈で、猜疑心ばかりが強くて、よそものや新しいものを受け入れずに、身内だけで固まっている。わずかな土塊にしがみつき、おのれの一族だけを信じている。そんな連中が、どうして、この秋津島を守れるものか。おれは、この国をどんな荒波にも負けない、金色に輝く大船に仕立てあげたいんだ。必ず、そうしてみせる」
もう30年前の文庫本ですが、図書館でも借りれると思いますので、ぜひお読みください。
平安時代を舞台にした「なんて素敵にジャパネスク」や「ざ・ちぇんじ!」も、とても面白いです。
山浦弘靖さんの「星子(せいこ)ひとり旅シリーズ」
次は、山浦弘靖(ひろやす)さんの、星子ひとり旅シリーズ。
著者の山浦弘靖(やまうらひろやす)さんは、「銀河鉄道999」、「一休さん」、「マジンガーZ」、「ゴジラ対メカゴジラ」、「首都消失」、「ウルトラセブン」などの脚本を書いた方です。
「星子(せいこ)ひとり旅シリーズ」は女子高校生の流星子(ながれ せいこ)さんが、各地に一人旅に出かけ、なぜかしら必ず殺人事件とイケメンに遭遇するという、軽快なテンポのトラベル&ミステリー&ラブコメ小説で、星子さんは、めちゃモテます! なんでこんなにモテるのよ!? あり得んでしょ!? っていうくらい、モテまくります。
あと、婚約者の宙太(ちゅうた)さんが、めちゃ優しい。
氷室冴子さんの文章がドラマチックなのに対して、山浦弘靖さんの文章は軽快なテンポでノリが良いです。
星子さんは、毎回旅に出るのですが、お金、電車の乗りつぎ、その地の観光名所も出てきて、まるで星子さんと一緒に旅をしているような気分になれます。
というわけで、思い切って、流氷見物に網走まで行くことにした。
飛行機で行けば、網走の女満別空港までドーンとひとっ飛び、ジェット旅客機で約一時間四十分で着いてしまう。しかし運賃が片道三万円ちょっと。往復でなんと五万五千円近い。
しかも、そのあとバス代とかホテル代とか、食費とか、いろいろとかかる。たとえ一泊二日の旅にしても八万円は用意しないとネ。
そんな金が、どこにあるってわけ!? バカにしないでよネ!
ま、ま、そうコーフンしない。
こういう時、JRサンがステキなお助けマンとして登場してくれるんです。ちょっとPRめいちゃうけど、北海道ワイド周遊券っていうのがある。
北海道内のJRなら特急自由席もJRバスも乗り放題、二十日間有効で、東京から学割を使って買うと2万9360円。東北新幹線の自由席特急券(往復約一万円)は別に払わなきゃならないけど、食費その他込みで約5万円也。
(ジョーカーは謎の旅案内人より抜粋)
プーンと立ち喰いソバのいい匂いが漂ってくると、哀愁列車気分はどこへやら、サッと駆け寄って、
「オバサン! カケソバちょうだい! 大盛りでネ! あ、そのホタテの照り焼き、オイシソー、二本ちょうだい!」
と、もう、本来のハッチャキ下町娘の本性丸出し。
出来上がったカケソバやホタテの照り焼きを、ガンガンと燃える石油ストーブの側で食べるこの旨さったらナイ!
あ、ホタテの照り焼きのもう一本はリュックの中に投げ込んで、ゴンベエの朝飯となる。近頃、ハンバーガーの食べ過ぎで太り気味だし、ダイエットせいってわけ。
かく言う星子サンも、お正月以来2kgも体重が増えた。でも、冬場は脂肪をつけて寒さを乗り切らねば。と、ダイエットは中止だ、なんて、ほんとは食欲には勝てないだけのこと。
なんせ、食べ盛りの女の子だからして。
さあて、角館へ着いたら、何を食べようかな。名物料理って、なんだろ?
(ジョーカーは謎の旅案内人より抜粋)
この本を読んでいる時、私は小学六年生だったので、観光地の名前や鉄道の話が出てきても「ちょっとわかんないなぁ」だったのですが、40歳になった今読み返すと、「あー、あそこね、知ってる!」と楽しさ倍増。
年を食うって良いですね~!
世界が広がった証拠ですね~。
星子ひとり旅シリーズは52巻まであるのですが、「ジョーカーは謎の旅案内人」はシリーズ31作目の本で、あとがきに人気ランキングが載ってあります。
一位・・・トランプ刑事の恋はハート色
二位・・・ハッピーエンドはJKの罠
三位・・・運命ゲームはハートのJ
四位・・・フルハウスは殺しの予言者
五位・・・幻の恋人はハートの殺人者
六位・・・全部
七位・・・フラッシュは恋の殺人連絡
八位・・・クローバーストレートは涙の花嫁人形、ハネムーン探偵はセブンカードで
十位・・・フォーカードは悪魔の招待状、謎の黄金姫はスペードのQ
本がたくさん出ているので、「どれを読んだらいいのかわからない」という方は、上の1992年当時のアンケートを参考にしてみてはいかがでしょうか。
一位の「トランプ刑事の恋はハート色」は、主人公の星子さん目線ではなく、婚約者の宙太さん目線での物語です(全52冊中、唯一男目線ですすむ)。
あと、星子さんを好きになる男キャラの人気ランキングもあったので載せておきます。
一位・・・宙太(ちゅうた)。星子の婚約者で、刑事。
二位・・・右京(うきょう)。弁護士。親がやくざの組長。
三位・・・マサル。刑事。
四位・・・春之助。ニューハーフ。
五位・・・小次郎
六位・・・ゴンベエ(星子の飼い猫)
七位・・・タケル
八位・・・圭一
九位・・・ゲンジロウ
十位・・・ロバート
あなたが、星子さんなら、どの男性を選ぶでしょうか???
(オマケ)
先日、書店に行ったら、横溝正史(よこみぞせいし)さんの、金田一耕助(きんだいちこうすけ)シリーズが出ていました!
横溝正史さん没後40年&生誕120年記念企画なのだそうです。
小中学生の頃は、「銀の海 金の大地」と「星子ひとり旅シリーズ」にドはまりしていた私ですが、高校生から熱烈な横溝ファンになり、古本屋巡りやオークションを駆使して、文庫本を100冊集めてました~。(二十歳超えて手塚治虫の火の鳥にハマった)
昔、持っていた本が復刊するって嬉しいですね!
皆様も、「この本、もう一度読みたい!」というものがおありでしたら、復刊ドットコムにリクエストしてみてはいかがでしょうか。